内部環境分析の手法~ヒアリングとデータ分析~

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内部環境分析の手法~ヒアリングとデータ分析~

前回まで、財務分析、経営分析の基礎知識、外部環境分析について説明してきました。今回からは、内部環境分析について見ていきます。まずは内部環境分析の基礎知識やヒアリングの方法を解説していきたいと思います。

■内部環境分析の目的

内部環境分析は何のために行うのでしょうか。私は以下の3つを目的として内部環境分析を行います。
①診断先の組織能力の「強みは何なのか?」「弱みは何なのか?」を分析すること
②改善の「ネタ」を収集すること
③ヒアリングを通して経営改善を推進してくれる人材を探すこと

①診断先の組織能力の「強みは何なのか?」「弱みは何なのか?」を分析すること

最適な戦略や改善策を立案するには、その企業の組織能力の「強み」や「弱み」を知らなくてはなりません。内部環境分析によってそれらを明らかにしていきます。

②改善の「ネタ」を収集すること

どこに改善の「ネタ」があるのか。それを収集するのも内部環境分析の目的の1つです。
支援には調査のフェーズと実行支援のフェーズがあります。「調査」のゴールは意思決定(「○○という戦略を取る」などを決めること)で「実行支援」のゴールは実際に決算書などの数字が変わることです。
実行支援として何をするべきか、調査の段階で仮説を作っておかないと支援の方向性が定められなくなります。内部環境分析を行うことで実行支援の「ネタ」を収集することができます。

③ヒアリングを通じて経営改善を推進してくれる人材を探すこと

実行支援において経営改善を推進してくれる人を見つけることは、とても重要です。改善を推進するには、実際に手を動かしてくれる人を見つけ、その人に動いてもらうことが必要です。
そのような人を、ヒアリングを通じて見つけ出すのも内部環境分析の目的の1つです。
改善の方向性に賛成か反対かに関わらず、周囲に影響力があり、エネルギー量の高い人は推進役となってくれる可能性があります。ヒアリングを行いながら、候補となる人材に目星をつけておくとよいでしょう

■ヒアリング(定性)とデータ分析

ここからは内部環境分析における、ヒアリングとデータ分析のポイントについて解説していきます。
事実を把握するのは定量的なデータを分析することが一番効果的です。中小企業の場合、そもそもデータが存在しなかったりするため実行が難しいケースもありますが、可能な範囲でデータ分析は必ず行う必要があります。
もし、データ分析ができない場合はヒアリングで補完します。「仕事時間の中にクレーム対応が占めるざっくりした割合は?」などのように定量的な回答となるように質問を工夫することが大切です。

1.人の記憶はあいまい

「人間はみな自分の見たいものしか見ようとしない」
これはカエサルの言葉です。ヒアリングを行う際にはこの言葉を意識しておくことが重要です。
例えば、あるメーカーでヒアリングを行ったところ、営業マンから「クレーム処理に追われて外回りできない」という回答が得られたとしましょう。
ここでその回答をもとに「ではクレームが多い原因を探り、削減しましょう」といったような結論をいきなり出してはいけません。まずは、きちんと定量化して言っていることが正しいか分析することが大切です。
実態を調査するために、営業マンに業務時間中に何をしているか細かくヒアリングし、内訳を定量化してまとめてみました。それが以下の表です。

内部環境分析の手法~ヒアリングとデータ分析~

なんと実際にクレーム処理に費やしている時間はたったの2%(右端の部分)だけだったのです。この結果から「クレームが多くて外回りできない」という回答は、事実を正しく表していないことがわかるでしょう。
物理的時間と心理的時間は違います。クレーム処理のような精神的に辛い業務はどうしても長い時間を費やしているように感じてしまいます。心理的時間をベースに分析を行ってしまうと、実態と異なる分析結果となってしまう危険性が高いのです。
「人間はみな自分の見たいものしか見ようとしない」
この言葉を意識して、常に実態の時間を明らかにして分析する姿勢が大切です。

2.データ分析の流れ(空→雨→傘のフレームワーク)

データ分析を行う際には「空→雨→傘のフレームワーク」を使うことが有効です。「空→雨→傘のフレームワーク」とは、空に雨雲があるという「事実」から、雨が降るのではないかという「解釈」を導き、傘を持っていこうという「判断」を下すといった分析の流れを表したフレームワークです。

分析方法

使いやすいフレームワークではありますが、以下のポイントに注意をする必要があります。
まず、ヒアリングの回答に関しては事実と解釈が混ざっていることも多く、これらを切りわける必要があります。そのために先ほどのような定量化を行うことが重要です。
また、相手と意見の相違がある場合、そもそも出発点での「事実」が相手と異なっている可能性があります。相手の頭の中を見ることはできないので、まずは慎重に事実を確認することが大切です。
解釈については、自分が知っている事実の量(データ、事例)が効いてきます。ただ、解釈の仕方がパターン化してしまうと問題です。例えば「在庫が多いのはリードタイムが長いからだ」などのように、安易に一般論に当てはめてしまうことです。自分たちに都合のよい解釈にあてはめてしまわないよう注意しましょう。
適切な判断をするには、やはり現場での経験が重要です。ただ、大きな落とし穴として、経験があればあるほど、過去の判断に囚われてしまうことです。解釈の場合と同じように、過去の経験に囚われて、実態にそぐわない判断をしてしまうことのないように注意が必要です。

3. ヒアリングのポイント

ヒアリングを行う際に注意したい点をまとめておきます

①「聞く場所」

ヒアリングは「会議室」で、一対一で行い、自由に発言できる環境を作ることが重要です。他の社員がいる前で行ってしまうと、本音を話してもらいにくくなります。従業員の方が言いにくいことについて聞きたい場合は、「安心できる場所」を探してそこで聞くとよいでしょう。例えばタバコ部屋や働いている現場、休憩所などです。対象者の心理的な負担を少なくしてあげることで、本音を聞き出しやすくなります。

②「見える化」

事実をつかむために「ホワイトボード」などでヒアリング内容を見える化しながら行うことも有効です。特に業務の流れなどのプロセスを聞く時は必須と言ってもよいでしょう。図やチャートなどの見える形に落とし込んで、確認をしながらディスカッションすることで、自分と相手の解釈の相違を防ぐことができます。

③「言葉の定義」

同じ言葉でも、その定義は自分と相手とで同じとは限りません。特に現場の指標には注意が必要です。同じ名称の指標でも、企業によって一般的なものとは違う方法で計算していることもあります。
言葉の定義がずれると、正しい事実認識をすることが難しくなり、相手との意思疎通がスムーズに行えなくなってしまいます。必ず言葉の定義は確認し、同じ認識を持ってヒアリングや分析を進めることが大切です。

分析方法

■まとめ

今回は内部環境分析を行うにあたっての基礎的な知識や注意点を解説しました。次回からは、具体的なヒアリング手法や機能別の分析手法についてお話していきます。

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